「うちはローン、70歳まであるんだよね」

先日の飲み会で、そんな一言が聞こえてきた。話していたのは、59歳の会社員の方。住宅ローンがまだ残っていて、あと10年以上払い続ける予定だという。
「でもまあ、退職金があるからなんとかなるよ」
そう言って笑っていたけれど、そのあとに続いた言葉に、私はちょっと引っかかった。
「確定拠出年金?会社がやってるけど、何もしてないよ。マッチング拠出?面倒だし、放ってある。今、200万円くらいかな。まあ、どうせそんなもんでしょ」
えっ…200万円?
確定拠出年金って、運用次第では1,000万円を超える人もいる。実際、同じ会社の中でも、ちゃんとマッチング拠出して運用してきた人は、退職時に1,000万円以上になっているらしい。
その差、800万円。
しかも、毎月少しの拠出と、最初の運用設定だけで、あとは“ほったらかし”でもよかったのに。
「お前は特別だよな」
そう言われたとき、なんだか胸がざわついた。
たしかに、ぼくはマッチング拠出をしていたし、運用もしていた。でも、それは“特別”なことじゃない。ただ、制度を知って、調べて、やってみただけ。むしろ、会社が用意してくれた仕組みを「使わない理由がなかった」から、やっただけだ。
でも、周りを見渡すと、IDもパスワードもわからない。そもそも確定拠出年金が何なのか、ピンときていない人が多い。
マッチング拠出をすれば、年間12万円の掛金がそのまま所得控除の対象になります。たとえば、所得税率が10〜25%の人なら、年間1.2万〜3万円程度の節税効果が見込めます。これを30年続ければ、控除だけでも合計で50万円以上になる計算です。
※所得税の控除額は「掛金 × 税率」で決まります。住民税も含めると、実質20%前後の節税効果になる人が多いです。たとえば、年間12万円を拠出して20%の節税効果があれば、年間2.4万円の節税。30年続ければ、控除だけで72万円にもなります。 早く始めるほど効果は大きくなりますが、iDeCoは原則60歳まで引き出せないという制約もあるため、無理のない範囲での活用が大切です。
さらに、運用益も非課税。この差は、想像以上に大きいと思いませんか?
「確定拠出年金よりも、まずはローンを返すべきじゃない?」 そんな声もあると思う。たしかに、住宅ローンの金利が高ければ、繰り上げ返済のほうが合理的な場合もある。 でも、今のような低金利時代では、ローン金利よりも運用利回りのほうが上回る可能性もある。どちらを優先するかは、金利・年齢・家計の状況によって変わるけれど、「確定拠出年金を放置する」のは、どんな状況でももったいないと私は思う。
もちろん、投資はリスクもあるし、怖い気持ちもわかる。でも、「知らない」「面倒」「よくわからない」って理由で、将来の自分の選択肢を減らしてしまうのは、やっぱりもったいない。

そして、もうひとつ気になったのが、老後の住まいの話。
「年金は月20万円くらい。80歳くらいになったら施設に入るつもりだけど、まあ、なんとかなるでしょ」
でも、有料老人ホームに夫婦で入ると、月50万円くらいかかることもある。10年入所すれば、単純計算で6,000万円。年金だけでは足りず、毎年120万円以上の赤字。10年で1,200万円の持ち出しが必要になる。
もちろん、もっと安い施設もあるし、補助制度を活用すれば軽減できる部分もある。でも、年金だけで安心して暮らせる時代じゃない。だからこそ、確定拠出年金のような“自分で備える仕組み”を活かすことが、これからの老後には欠かせないと思う。
実はこの話、半年前にも同じ人としていた。あのときも「今さらやっても遅いでしょ」と言っていた。そして今回も、同じ言葉が返ってきた。
「そうかもしれない。面倒だし、運用って損する可能性もあるんでしょ?確定拠出年金に関しては、もう手遅れだよ」
たしかに、60歳を目前にして、今から大きく増やすのは難しいかもしれない。でも、半年前に話したときから、ぼくの確定拠出年金は運用益だけで70万円以上増えていた。拠出分を含めれば、半年で80万円ほど増えたことになる。
「特別だよな」と言われたけれど、やったことはシンプルだ。制度を知って、IDとパスワードを確認して、運用商品を選んだだけ。あとは、ほとんど何もしていない。
それでも、半年で80万円。
ちなみに、60歳で確定拠出年金の拠出(積立)は終了するけれど、運用は最長70歳まで継続できる。さらに、60歳以降にiDeCoに加入することも可能。たとえば、60歳で退職して無職になり、国民年金に任意加入すれば、月68,000円まで拠出できる。
また、61歳から法人を設立して役員報酬(月8万円)を得る場合、厚生年金に加入すればiDeCoの上限は月23,000円になるけれど、それでも非課税で運用できて、所得控除も受けられる。退職後の資産形成として、十分に意味がある選択肢だと思う。
もちろん、60歳からiDeCoを始めた場合、受け取りは65歳以降になる。でも、それは「5年間、非課税で運用できる時間がある」ということでもある。退職金や余剰資金を少しでも増やしたいなら、最後のひと伸びに使える制度だ。
お金は4,000万円あれば十分、という人もいる。でも、その4,000万円をどう準備するか。どう守るか。どう使うか。そこに“知識”と“ちょっとの手間”があるかどうかで、老後の安心感は大きく変わる。
確定拠出年金は、会社が用意してくれた“未来の自分へのプレゼント”みたいなもの。それを開けずに放っておくのは、やっぱり惜しい。
財布の中の数千円には敏感なのに、将来の何百万円には無頓着。そんな姿を見て、私はいつも不思議に思う。
「知らないことは恥じゃない。でも、知ろうとしないのは、ちょっともったいない」
そんなことを、あの飲み会の帰り道に、しみじみ思った夜だった。

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