
父が施設に入り、家の空気が静かに変わった
父が施設に入ることが決まったとき、家の中には言葉にできない重さがあった。
母は強く拒んだ。 「家で見たい」「最後まで一緒にいたい」 その気持ちは痛いほど分かった。
しかし、病院の看護師、ソーシャルワーカー、ケアマネが家に来て、実際に生活動作を確認した結果── 要介護の父を家で支えるのは到底無理と判断された。
施設が決まるまで、病院は退院を許してくれなかった。 それほど、家での介護は現実的ではなかった。
父が施設に入った日、家の空気は静かに変わった。 母の寂しさは、言葉にしなくても伝わってきた。
母がふと漏らした「犬を飼いたい」という言葉
そんなある日、母がぽつりと言った。
「犬を飼いたい」
その言葉には、寂しさと、何かを埋めたい気持ちが滲んでいた。 私は、少しでも母の心が軽くなるならと思い、マルプーを迎えることにした。
小さくて、ふわふわで、愛らしい。 母の表情が少しだけ明るくなったのを覚えている。
しかし、母には世話が難しかった
現実は、想像よりも厳しかった。
散歩、食事、トイレ、しつけ。 高齢の母には負担が大きく、次第に疲れが見え始めた。
「やっぱり無理かもしれない」
その言葉を聞いたとき、私は自然にこう言っていた。
「じゃあ、俺が面倒を見るよ」
こうして、マルプーは私と暮らすことになった。
価格:2300円 |
とても重宝しているグッズです。
今現在はこちらの方がお得です。
予想外だったのは、救われたのが“私のほう”だったこと
仕事、介護、日々の疲れ。 気づけば、心に余裕がなくなっていた。
そんな私を、マルプーはいつも全身で迎えてくれた。 玄関を開けると、しっぽを振って飛びついてくる。 散歩に出れば、自然と呼吸が整い、気持ちが軽くなる。
「この子がいてくれてよかった」
そう思う瞬間が、日に日に増えていった。
今では、母がマルプーの訪問を心待ちにしている
そして今。 実家に行くと、母はマルプーが来るのを心から楽しみにしている。
「今日は来るの?」 「かわいいねぇ、ほんと癒されるね」
まるでセラピードッグのように、母の表情が明るくなる。
さらに最近では、母がこう言うようになった。
「2〜3日なら、私が面倒を見たい」
最初は世話が難しいと言っていた母が、今では自分からそう言う。 小さな命が、母の心を再び温めてくれたのだ。
家族の形は変わっても、つながりは続いていく
父が施設に入り、家族の形は変わった。 でも、つながりは途切れなかった。
むしろ、マルプーという小さな存在が、 母と私の心をそっとつないでくれた。
支えるつもりで迎えたはずが、 気づけば支えられていたのは私たちのほうだった。
57歳になって、ようやく分かったことがある。
心の余白は、意識してつくらないと失われていく。 そして、その余白を取り戻してくれるのは、 ときに人ではなく、小さな命だったりする。

コメント